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セイルフィッシュチャレンジ回想記
2010/06/25 02:11:13 ブログカテゴリ | 書庫 かじきコラム
「パリパリ・・ピキン・・・」
張り詰めた空気の中、リールに巻き込まれては出て行く
細いナイロンラインの悲鳴にも似た音が響き渡り、
長く伸びるラインの先には
一向に弱る気配の無いセイルフィッシュが
体力を温存するように悠然と泳ぎ続けている。



2ヶ月ほど前Yさんから
「16ポンドラインでセイルフィッシュを釣りたいのですが・・。」
と言う内容の連絡があり、
僕は、あまり経験と現実味の無いウルトラライトタックルでの
かじき釣りというオファーに
「ああ、はい・・やってみましょうか・・」
と、曖昧な返事のまま受話器を置いた。

16ポンドテストのナイロンモノフィラメントラインとは、
日本で表現されている号数に換算し直すと約4号のラインになり、
ラインその物の破断強度が7kg、結束強度は更に低くなり
大人が少し力を入れて引っ張ると
「パチン!」と、簡単に切れてしまう釣り糸で、
要はブラックバスのルアーフィッシングで使うような道具で
かじきを釣るという話にさっぱり現実感が沸かなかった。

個人的な考え方であるが、
切れない強いラインでヒットした魚は確実に取り込みたいというのが
僕のスタイルで、この考え方はチャーターボートのキャプテン
という職業柄が大いに影響している。

当たり前の話だが、釣り船の船長は当日の釣行にて良き結果を出し、
お客様に満足して帰っていただきたいと思うわけであって
わざわざあえて困難な選択をして危険な橋渡りをすることは
出来るだけ控えたいのだが、
こういうスタイルで釣りをしたいというゲストの要望に
できるだけ対応するのもキャプテンの仕事の一つであり、
実体験と現実感のないその釣りをぼんやりイメージしているうちに
あっというまに釣行当日がやってきた。


Yさんの話では、このラインクラスでのセイルフィッシュ(バショウカジキ)
の記録は未だ未登録で、今回の釣行でもしキャッチする事が出来れば
JGFA(ジャパンゲームフィッシングアソシエーション)登録の
日本記録になるそうで、
その話とYさんが持参した小型のトローリングリールに納まる
細い16ポンドラインを見て、少し失礼な話だが

「あははは・・」

と、声を出して笑ってしまった。
かじきの仲間では小型の部類に入るセイルを釣るにしても、
笑ってしまうくらいか細いラインに思えたからだ。

話もそこそこに船に乗り込み、タックルの準備、ヒット時の動線などを
ミーティング後、船は港を出港してポイントへ進路をとった。



午前8時頃からトローリングを開始するが、ラインに見合った小型ルアーと

セイルフィッシュ限定のポイントが影響して、ヒットするのは小型回遊魚ばかり。

頭に少し悪い予感が過ぎるも、ここはポジティブシンキングで乗り切らねば

などど海面の様子を伺っていると、潮が変わり徐々に生命感の溢れる

海に変化していくのが手に取るように伝わってきた。




昼を少し過ぎた頃、「これだ!」という海鳥と魚群探知機からの反応と同時に

同行のKさんの16ポンドタックルが唸りをあげるも、一瞬でラインブレイク。

やはりそうは簡単にいかない。


時間は刻々と過ぎ、メンバー全員にやや諦めの空気が漂い始める。

が、飛び交う海鳥と生命感溢れる洋上に必ずセイルはいるという自信が

ぼくにはあった。

というか、無理やり自分に言い聞かせていた。


「大層な自信だねぇ」

と、揶揄されるかもしれないが、釣り船のキャプテンなんて

沖に出れば信じるのは自分しかいないのである。

そして、過去の経験、体験と自信を元に

信じた場所で待ち続けるしかない。


と、頭の中でぐるぐると思考をめぐらせていると、

右舷後方から物凄いスピードでルアーに突っ込んでくる影が見えた。

正確には見えたのは影ではなく水面直下を高速で移動する魚の背びれにより

円錐型に盛り上がった海面で、それが猛スピードでYさんのルアーに近づき、

ほんの少しだけそのルアーに触れたものの、フックアップには程遠いチェイス。

まるでステルス戦闘機だ。


「間違いなくかじきだ。」


確信した僕は、一旦ルアーを回収してラインを結び直そうとしているYさんを制止して

そのまま流すように命じ、何事も無かったようにそのまま暫くボートを走らせ

一度遠ざかり、再びその場所へそろりそろりと船を運んだ。



メンバー全員の緊張が高鳴り、視線は後方のルアーに集中している。

いつかじきがルアーに食いついてもいいように、エンジンのリモコンレバーに

置いている手にじんわりと汗がにじむ。


「カジキだー!」

というSさんの怒号がその静寂を打ち破る。


同行のSさんは現職が酒屋さんと言う事も手伝い、かじきの登場を告げるには

十分過ぎるくらいの声量で、その力強い怒号がこれから始まる長いやり取り

を告げるファンファーレのようだ。


一説ではセイルフィッシュの泳速は魚類中最速とも言われ、

このセイルも例に漏れず一瞬で船尾から遠ざかり、

再び海面に姿を現した時は約150m程後方へと遠ざかっていた。



驚くのは速さも去ることながら、その大きさである。


Yさんが後ほど

「キャプテン、2,30キロ位のセイルでよかったのに・・」

と愚痴をこぼしていたが、まさにその通りでヒットしたのは

こんなライトタックルトローリングをしている時にこんな大物困ります!

と、愚痴を言いたくなる程の巨大セイルフィッシュ。

釣りの神様がいるとすれば、やはり神は試練をお与えになる様だ。


海面を切り裂きながら遠ざかるセイルフィッシュに見とれて、

僕の頭は一時時間が停止してしまったが、ふと我に返りYさんに目をやると

Yさんは既に臨戦態勢に入り、ルアーをトロールしていた船尾から素早く

ロッドをもって船首への移動を終えていた。



16ポンドラインでのドラグ設定値
(それ以上の力でラインを引くとリールからラインが出て行く力)

は約2,4kgで、それは「ズルズル」と言う表現が似合うか弱き設定値で

一般的な釣りでのアングラーがロッドを煽り魚を引き寄せる行為には程遠く、

ある程度は予測していたものの、タックルとターゲットのバランスが

ミスマッチな釣りに挑んでいるのだと改めて感じた。

従って逃げる魚をボートで追い掛け回し、アングラーはひたすらラインを巻き続ける

と言う構図になり、僕はアングラーのYすぐ後ろにエンジンリモコンのレバーを握り締め

いつもとは全く異なった緊張感と高揚感の中、アングラーと一体化して

魚を追いかけるハンターのような感覚に陥っていった。


僕は、この精神が一点に集中していく瞬間が好きだ。

それはサーフィンで波の壁を滑り落ちていくとき、

バンドのアンサンブルで自分が打ち出すドラムサウンドがバンド全体の

音と交じり合いグルーヴしている瞬間とも似ている。


そんな瞬間を時代の産物であるインターネットを通じて偶然知り合った

初対面のゲストの方と一瞬で同じ点に向かって精神が集中していく

不思議な時間だ。


しかしそんな時間にも必ず終わりはやってくる。


後30cm手を伸ばせばリーダー(ハリス)に手が届くところまで寄せては

また50m遠ざかると言うサイクルを10回以上繰り返しても、

水面下3mを悠然と泳ぎ続けるそのセイルフィッシュからは

「疲れ」とか「弱り」といった類の様子を感じ取ることが出来ず、

長く続いた高揚感は終わりの見えないシーソーゲームにより

不安と疲労感へと徐々に変化し始めた。


そんな動揺を打ち消そうと

「大丈夫!絶対に捕りますよ!」

と、大声でアングラーに発破を掛けたつもりだったが、

あれは己の不安を打ち消そうとした自分への言葉で

それは逆にアングラーへその不安と焦りを伝染させてしまった一言

だったのかもしれない。


いくら寄せようとしても一定の距離を置く相手に業を煮やしたYさんは、

両手でリールのスプール(ラインが巻き込まれているドラム)を押さえ込み

ハンドドラグで加圧して一気に勝負に出た。


次の瞬間、

「バチーン」

とラインがはじけ飛ぶ音がしてゲームは終り、瞬時にカジキは

見えない深みに泳ぎ去った。


シアターで見るシネマの終わりはゆっくりゆっくりと緞帳が下りてきて

ショータイムが終わるのだが、

このセイルフィッシュとの対決は映画の途中で何の予告もなしに

いきなりドカーンと緞帳が落ちてきて強制的に終了するような終わり方

と言う表現が正しい。


敗因はアングラーへの配慮不足、コントロール不足が原因だった。


ラインが弾けた拍子に後ろへ転んでしまったYさんと僕は

突然の出来事にしばし言葉を失って、随分と傾いた夕日を眺めながら

手を伸ばせば届きそうな位のすぐそばでつい先程まで

泳いでいた大きなセイルフィッシュのことを

無言で想い続けた。